9:30頃、オレはオーシャンズパークに到着した。
すると既にドン・チードルとケイシー・アフレックが設営を済ませていた。
「よぉ、調子はどうだい?」
なんて挨拶を交わした後、オレは二人に聞きたいことがあったので聞いてみた。
「今日は焚き火はするのかい?」
すると、ケイシーは
「オレは自分のテーブルの上でミニ焚き火をしようと思う」
と言い、ドンは
「オレはどっちでもいいが、なんでそんなことを聞くんだ?」
「そうか、分かった」
その答えを聞いて、オレは設営を始めた。
なぜ焚き火をするか確認したのか…オレは今回新たなフォーメーションを試してみたかったからだ。
その名もYADOKARI-STYLE。
オレたちオーシャンズにはシェルターがない。
そして、この日は風が強くなるという予報が出ている。
夜になれば氷点下にもなる恐れがある中、武井だけで寒さを凌ぐのは相当過酷と考えたオレは、テントの中に入ることで風の影響を回避しようと考えた。
↑こんな感じだ。
いつものオーシャンズの陣形は、円を描くように各自のイスやテーブルを配置し、その周囲の少し離れたところにテントを張る。
その状態でテントに入ると、訓練の中心から離れてしまうため疎外感が半端なく、ややもするといつの間にか除名にされる恐れもある。
であれば、そもそもテントを近くに張ってしまおうと考えた。
しかし、中心で焚き火をするとなると、火の粉が幕に飛ぶ恐れがあり危険なため、二人に焚き火をするかどうかを確認したワケだ。
オレがイスの真後ろにテントを張ったところ、ドンとケイシーは既に設営済みだったにも関わらず
「ほほぅ、面白そうじゃないか、オレもやってみるかな」
と、イスのすぐ近くにテントを張った。
すると、その後に来たシャオポー・チン、マット・デイモン、エディ・ジェイミソンが
「えっ!?ナニ?今日はそういうスタイルなのか?」
と聞いてきたので
「いやいや、あくまでもオレがやってみたいだけだから、無理に同じように張らなくてもいいんだぜ」
と答えたものの、どうやらコイツらも同じように張るらしい。
「ってことは、今日は焚き火はしないのか?」
マットは焚き火をやろうと張り切って薪を持ってきていた。
「あぁ、そういうワケだから、今日は焚き火なしだ。悪いな」
「じゃあどうやって暖を取るんだ?いくら訓練と言えども、さすがに何もないと厳しいんじゃないか?」
「何を言ってるんだ、オレたちには武井があるじゃないか」
「ナニぃ?今日は武井を持って来てないぞ!」
マットはしばらくの間、遠く離れた場所で任務を遂行していたため、久しぶりの訓練参加だ。
もちろん報告書には目を通していただろうが、最近のオーシャンズのスタイル…軟弱化ともいう…が実感できていないらしい。
そんなこんなで、午前中に到着したメンバーで訓練開始だ!
ナインティナインマイルズで作られたオーシャンズビールだ。
(正確には「ズ」は無いが)
これは昨年夏に、スコット・カーンからもらったモノだ。
みんなで飲みたいと思っていたのだが、なかなかタイミングが合わなくてな。
でもさすがにそろそろ賞味期限が近付いてきたので、今回みんなで飲もうと思ったのさ。
味については、正直なところあまり期待していなかった。
「オーシャン(ズ)ビール」というだけで十分だった。
ところが飲んでみたところ、これが実にフルーティーで旨い!
寒い時期だけに、ビール1.8ℓも飲み切れるのかと心配したが、みんなであっという間にカラにしちまったぜ。
乾杯で狼煙を上げたらさっそく訓練開始だ。
マットは緊縛訓練を行なうようだ。
いま、オーシャンズの中ではラーメンが熱い。
どうやら、スープからこだわって作るようだ。
ただ、中には食品衛生法上、絶対にアウトな食材も入っていると聞くので、オレは絶対に食わないが。
マットは、ラーメンを作るヤツばかりではバランスが悪かろうと、トッピングとしてチャーシューを手作りすることにしたらしい。
出来上がりが楽しみだぜ♪
オレたちはもぐもぐタイムだ。
ダメなヤツらだ…。
オレはちゃんと、ストームクッカーを使ってあんかけラーメンを作ったぜ。
寒い時期に、あんかけのとろみは体を温めてくれるのさ。
冷凍食品なのでお湯の中に入れてしばらく煮込むだけだが、火を使っているだけ他のヤツらよりはマシさ。
さて、オレたちの周りはこんな状況さ。
非常に密度が高い。
このフォーメーションは、混雑したキャンプ場でも過剰にスペースを取ることはない。
多くのキャンパーとの共存を実現するフォーメーションとも言えるだろう。
オレたちオーシャンズは、こう見えてキャンパーフレンドリーな悪の組織なのさ。
ちなみに、今日のオーシャンズパークはこんな状況だ。
テントを張っているのはオレたちだけだ。
パークのマネージャーに確認したところ、
「この時期に好き好んで泊まる人はいませんねぇ」
とのこと。
オレたちオーシャンズは、一度座ったらほとんど動かない。
それ故、パークのマネージャーたちからは
「ホントに行儀の良いおじさんたち」
と評価されている。
その時、世界を揺るがすような悪事を企てているとも知らずにな。
そんなオレたち…
オーシャンズ!
太陽が高い時間は、ポカポカと暖かくて気持ちが良い。
しかし太陽が傾き始めると、すぐに肌寒くなってくる。
オレが芋焼酎のお湯割りを飲み始めたちょうどその頃、ヤツが到着したんだ。
今回の訓練から新たなメンバーがオーシャンズに加わった。
オレたちはその新入りのことを昔からよく知っている。
信頼のおけるヤツだ。
だからオーシャンズに入ることについて、異論を唱えるヤツは誰一人いない。
そいつを紹介したいのだが、あまりにも自然すぎて「新メンバー感」が皆無だったため、写真を撮っていない。
しかも、うっかりオーシャンズネームを付け忘れてしまった…。
オーシャンズネームは重要だ。
みんなの合議で決める必要がある。
いくらオレでも勝手に決めるワケにはいかない。
しかし、新入りの名前がないのも報告書の作成上、不都合がある。
だからここでは、何でもいいので適当なワードを選び、仮称で呼ぶことにしよう。
よし、「幕府(仮)」だ。
これはさすがにオーシャンズネームにはならないだろうからな。
もちろん、意味など何もない。
今回久しぶりに新メンバーを迎えたオーシャンズ。
以前のオーシャンズは、メンバーになるには圧迫面接をクリアしなければならなかったり、長期間のロビー活動が必要だったりとかなりハードルが高かったが、今は時代が変わった。
平日の夜に都内某所で開催される作戦会議に参加し、
「Youもオーシャンズに入っちゃいなよ」
と言われれば、加入できるらしい。
しかも幕府(仮)は、自らオーシャンズ入りを志望したのかというと、決してそうではない。
少なくともオレは、幕府(仮)が「オーシャンズに入りたい」と言ったのを聞いた記憶がない。
それでも入れるのが、今のオーシャンズなのだ。
強いて言うなら、平日夜の作戦会議に招集されるかどうか、そこがポイントだ。
ただ、これに納得いかないのがチョコバットだ。
「オレがオーシャンズに入るのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!?」
「バーニーには『オマエのためにもこんな裏組織には入らない方がいい』と諭されながらも、どうしても入りたかったので散々ロビー活動をしたんだぜ?」
「しかもようやく入ったと思ったら、毎回除名の危機に晒されて…おかしいじゃないか!」
チョコバットが言いたいことはよく分かる。
しかし今回、オーシャンズにおけるヒエラルキー構造が明確になった。
完全年功序列
成果主義だかなんだかがもてはやされる現代のビジネス社会ではなかなか見掛けない構造だ。
演芸の世界では、入門が早いか遅いかで上下関係が決まるが、オーシャンズは単純に年齢で決まるらしい。
そういう意味で、チョコバットはいつまでも下っ端だ。
自分より年下が加入するまではな。
そんなオレたち…
オーシャンズ!
そうこうしているうちにすっかり日が暮れた。
そろそろ夕食にするか。
オレはカルビクッパ風のメニューにした。
前回、キムチ鍋に追い豆板醤を入れたら、思いのほか辛くてシャオポー・チンには不評だったので、今回はマイルドに仕上げたぜ。
マットが何時間もかけて作ったチャーシューをいただいたぜ。
本人も言っていた通り、少し塩気が強かったかな。
でも決して不味かったワケではない。
初めて作ったにしては上出来だったぜ。
スコットからは砂肝…おっと、ここではフォアグラと呼ばなきゃいけなかったな…をもらった。
それぞれが作った料理を少しずつお裾分けしたりされたりしながら、訓練は続く。
あまりにも過酷な訓練で、グロッキーする奴が続出だ。
ジョージ・クルーニーは、いつの間にかクルマに行って寝ていたらしい。
…っていうか「今回はテントを張る!」と息巻いていたが、口だけだったな。
マットは、イスに座っていたはずが、いつの間にかすぐ後ろのテントに入ってしまい、翌朝まで姿を見ることはなかった。
恐らく、太陽が高いうちから日本酒を飲んでいたことが敗因だろうな。
チョコバットは、20時頃
「ちょっと一休みしてくる」
と言ってテントに入って行った。
きっと朝まで戻らないだろう。
21時頃、チョコバットのテントの中からアラームが鳴り響いたが、いつまでも止まる気配はない。
「このまま起きてこなかったら、ヤツはどうなるんだい?」
誰かがオレに聞いたので、オレはこう答えた。
「翌朝、絶望に満ちた顔で起きてくるだろうな」
それが現実のものとなりそうなパターンだ。
かく言うオレも、いつのまにかこんな姿勢になっていた。
この姿勢で寝てしまったらしい。
気付いたら1時を過ぎていた。
もちろん、誰も起きていない。
気温はマイナス2℃を下回っている。
なんてことだ!
何で誰も起こしてくれないんだ?
オレを凍死させる気か!?
そう言えば、雑魚がオレの目の前にある武井を消してくれた記憶は何となくある。
とりあえず生きて目覚めたことに感謝し、今日の出来事を振り返りながら一服した。
「このYADOKARI-STYLEはあまりにも寝床に近すぎて、みんなすぐに寝てしまう…ある意味失敗かもな」
まぁ、次にこのスタイルが必要になるのは今年の暮れだろうから、またその時に考えよう。
そしてオレは、改めて眠りについた。
翌朝。
シクシクだ…あまりにもシクシクな状況だ(@Д@。。。
特に今回は狭いエリアに密集していたため、ひどいシクシクっぷりだ…。
他のヤツらもぼちぼち起きてきて、
「いつのまにか寝ちまったよ…」
と、口々に昨夜の反省を述べる。
まぁたまにはこんな訓練もあるさ。
それぞれ朝食の準備を始める。
オレは滅多に食べないインスタントラーメンを食べる。
世を忍ぶ仮の姿でのキャンプでは、オレの些細なこだわりでカップラーメンはNGフードとしているが、オーシャンズとおとこだらけの時だけは解禁しているのさ。
そして朝食の後は、みんなにコーヒーを淹れてやるのさ。
8時を回った頃、睡眠時間12時間のチョコバットが起きてきた。
もちろん、その表情には絶望しか見て取れない。
一方、新入りの幕府(仮)は
「諸先輩方!昨夜は遅くまで色々とご教示いただきましてありがとうございました!」
と、丁寧な礼を述べている。
それを見たチョコバットの表情からは、絶望に加えて焦燥も浮かんでいる。
でも安心しろチョコバット、朗報だ。
昨夜作っただけで、誰も一口も食べることなく朝を迎えた酸辣湯。
朝、みんなに食わせてくれただろ?
あれは本当に旨かったぜ!
是非また、世を忍ぶ仮の姿でのキャンプの時にふるまってくれよな♪
それぞれの都合で、適当なタイミングで帰っていく。
新入りの幕府(仮)が真っ先に帰ったが、誰も咎めるヤツはいない。
オーシャンズには集合時刻も解散時刻も決まっていないからな。
昼を過ぎた頃、最後まで残っていたメンバーも引き上げることにした。
帰る時には、来る前よりもキレイにしてな。
オレたちは、キャンパーフレンドリーな悪の組織だからな。
そんなオレたち…
オーシャンズ!
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